Red Demoness See.







静かで透き通る
嫌いな音が鳴り響く


また
新たな夜に逢えたのに


青暗い空が
眩しい月が
心地良い静けさが


滴る流星ごときに阻まれる






「…騒がしいな」
「外も中も」






廊下を慌ただしく駆ける
大勢のメイド


また
あの子が求めている


館中の
全ての


意識






「あんなに欲張りだったのね」


「五年の歳月が」
「瞬き一つも許さない」


「…ってとこかな」


「ふふっ」


窓の向こうに
小さく映る光景は
まるで


鏡でも眺めているかのよう


あの子と


少々頼りない
虹を背負う紅龍






「知ってたよ」
「美鈴」














「お姉様」


「そんなに濡れて」
「よくまあこんな天気で外に出れるわね」


「嫌いじゃなかったの?」
「嫌いよ」


「お姉様こそ」
「嫌いなんでしょう?」






「だけど」
「お姉様は私に浴びせ続けてきたわ」
「雨や水」
「それらがどうにかなってしまうほどの黒を」


「自分ばっかり」
「好きな時に好きなだけ」
「七色に包まれて」






「嫌いなんでしょう?」


「だからまたそうやって」
「私を」
「黒へ閉じ込めようとする」






「傘」


「さしていたでしょう」
「どうしたの?」


「メイにあげたわ」
「こんな雨でも」
「そのままじゃ身体を壊しちゃう」


「私はいいの」
「こんな雨」
「メイに比べればなんてことないもの」


「お姉様は」
「メイにまで私みたいにしているんでしょう」
「だから」






「私がメイの傘になるの」














「駄目よ」






「許さない」
「そんな勝手」






「…やっぱり」
「嫌いなのね」
「メイも私も」
「どうでもいいって思ってるんでしょう!?」






「美鈴は」
「言っていなかった?」


「嫌いならそもそも相手にしない」
「…って」






「…着替え」
「持って来させるわ」


「美鈴がそうなってしまうとしたら」
「きっと」


「私達もそうなってしまうんじゃないかしら」










「フランドール」


「傘は」
「一本あれば充分だわ」














演奏は大団円を迎えた






その場に
王女以外の姿は無く


その王女も
また
此処に無く






それは何時のことだったか


あの日も
確かに
こんな雨が降っていた






「冷たい…」


掌が
ゆっくり
硝子越しの空気を吸い


感覚が
意識を呼び戻す


「嫌いだな」
「やっぱり」


「うん」






向こうから聞こえてくる足音


仕事を終え
長い廊下を歩く


紅い髪の龍






こちらに気付いたのか
足を止め


目が合い


少し脅えるように
彼女は身を強張らせる


握られたその手には


妹の傘






「脅されたわ」


「はあ」






「たまにトチってる時もあったけど」
「これでも一応」
「一応ね」






「貴女を見ているつもりよ」






「多分だけど」
「他の皆もそうなんじゃないかしらね」














「知ってましたよ」






「本当はずっと」
「見ていてくれましたよね」






「見える所で見てくれない」


「そういう方だって」
「あの時から」






「知ってましたよ」










「ちゃんと」
「…ね」