アイマスレイアP伝…「休」

みかんは今日まで溜めきっていた食器洗いを手早く済ませた。
手拭いを片手に今日の予定を思い出していたが、どうも思い当たる節がが見当たらない。
友達はみんな何か用事があるらしくて都合が合わなかった。
所持金も乏しく、一々大事な貯金箱を無下にしてまで出掛けたい場所があるわけでもない。
まあ、たまには普段の姉のように家でごろごろするのも悪くないかと思い、その辺に手拭いを投げてリビングに向かった。
やってることがまるで主婦のような気もしたが、もはや日常茶飯事のレベルだ。
こんなこと、いちいち気にしていられない。


今日は休日。
零亜も今日は仕事が休みのはずだったが、珍しくも朝早くから出掛けていた。行き先は聞いてないが、散歩にしては少し時間がかかっているような。
仕事も忙しいなりに頑張っているようで、ここ数日は帰りが遅い。
アイドルのプロデュースと言っていたが、どんな事をしているのだろう…


テレビのリモコンを手に取り、電源を入れて適当にチャンネルを回す。
「…あ、筑波未来だ」
ふと目についたアイドルの出ていたチャンネルで手を止める。
アイドル――芸能人なんて、テレビの向こう側の世界の人だと思っていたが、
そんな世界の裏側に姉がいるというのもなんだかおかしな話だ。
「お、天海春香も出てる」
テレビに出てきてまだ間もない、みかんもお気に入りの人気新人アイドル。
デビューCDも勿論購入済み。
「そっと潜る、私マーメイ…」
気がつけば思わず口ずさんでいる程だ。
「へぇ?私マーメイ?ほーぉ」
突然の声に驚く。まごうことなき姉の声だ。
リビングのドアにもたれ掛かり、腕を組んでこちらをニヤニヤしながら見ていた。
聞かれてた…!
夢中で口ずさんでいて全く気付かなかった。猛烈に恥ずかしい。
「…お、お帰りなさい。何処行ってたんですか」
「いやぁ、ちょっと迎えにね。へぇ…知らなかったわ」
「べ、別にいいじゃないですか。好きなものは好きなんです」
「そーかそーか。お姉さんはすんごく嬉しいわ。…ほら、入っておいで」
零亜がドアの向こうに顔を向け、誰かを手招く。
「お邪魔しまーす…」
何処かで聞いたような声。
リビングに姿を現した彼女を見て、みかんは一瞬だけ硬直する。
我が目を疑い、我を忘れ、言葉を失い、テレビと見比べ、仕舞いに失礼にも指を指してしまった。






「……あ、天海…春香?」
「はい…えと、ありがとうございます」