アイマスレイアP伝…選

「さて…こんなとこで突っ立ってるのもなんだし」
目の前には事務所へと通じる扉。
自らを新人プロデューサーと名乗ったスーツ姿の男が一足先に中に入っていったが、そんな事をそんなに不安がる必要は全くない。
むしろ後を追うべきである。
「そう…何故なら私も新人プロデューサーなのだからっ!」

……
………虚しい独り言である。
気を取り直してドアノブに手をかける――
「っ…と?」
握ったドアノブに力を込める前にドアが動いた。
何かと思ったが、視線を前に向けるだけですぐわかった。
事務所内から女の子が出てきたのだ。
自分よりも少し歳も背も低い感じの子。髪に結わえたピンクのリボンが可愛い印象を受けた。
ここから出てきたということは、この子もアイドルを目指す卵なのだろうか。
女の子と目が合った。
とりあえず軽く挨拶でも、と思って声をかけようとしたが、
それよりも早く女の子は無言で会釈し、足早に立ち去っていく。
「…うーん…らしくないな、私」
頬を叩いて気合いを入れる。
痛い。力を入れすぎた。


「おお、来たなレイア君」
事務所内――
いかにもといった感じの扉を開けて最初にその声を聞く。
いつぞや見かけたおっさん――高木社長が……いるにはいるのだが、逆光で顔がよく見えない。
声から察するに、にこやかな顔をしていると思う。
そのままの声質で饒舌に喋り始める社長。
今更だが、意気揚々とプロデューサーやりますとは言ったものの
具体的に何をどう…といった事はさっぱりわからなかった。
社長がとりあえず的なニュアンスでその辺りを説明してくれたのにはありがたい。
目線をちらっと横に向けると、さっき会った前髪の長い彼と目が合った…ような気がしなくもなかった。


「…ま、初めてで緊張するだろうが気楽にな」
長い話が終わった。
あくまでとりあえず的だったので後は慣れるしかない。
意外と無茶させる社長だ…と思ったが
そもそも二つ返事でプロデューサーを引き受ける自分の方が無茶だなと思ったので胸の奥に片付けた。
「で、これが今ウチにいる女の子達のリストだ。とりあえず一人ずつ担当してもらうよ」
社長が履歴書のようなものを差し出した。
「私はちょっと喋り疲れたので少し席を外すよ。ゆっくり考えて決めてくれ」
と言い残して社長が部屋から出ていく。タバコでも吸いに行くのだろうか。
緊張を紛らわすために自分も吸いたくなってきた…が、流石に今はまずい気がする。


「…ふーむ」
とりあえず全ての履歴書に目を通す。
自分と同じくらいの子もいそうな気はしていたが、まさかみかんと同い年までいるとは。
今まで自分の知らない世界だったので、そんなちょっとしたことで驚かされる。
…まあ、テレビでも頑張っている子供なんてたくさん映ってるわけだが。
「…ん、あなたはもう見ないの?これ」
ふと彼に視線を送る。
履歴書は何枚かしか見てなかったような気がする。
「あ…うん。もう決めた」
「ふーん…ん?」
履歴書の一枚に目が留まる。
「この子…さっきの」






顔写真にはさっきすれ違った女の子が写っていた。