漆「風と地の姫」-3.5

後ろ髪を引かれる思いで図書館を後にする。
結局、有力な情報は何も得られなかった。
日本に帰る方法、宝石について…何かそれらしいことが少しでも書いている本があればよかったのだが。
「まあ、あの量ですから…」
アルナがそれとなくフォローを入れてくれる。
それに答えるように目を合わせ、少し苦笑してみせた。
「また明日にも図書館を開けますので、ゆっくりお探しください」
「本当に…ありがとうございます」
ここまで良くしてくれると逆に申し訳なくなってくる。
厚意に答えるためにも、そして元いた世界に帰るためにも…
ここで必ず、何か手掛かりを掴まなければ――


「…ん」
廊下の先に何かを見つけて、アルナが歩む足を止めた。
それにその場の全員がすぐに反応し、何事かとアルナに目をやり、
彼女が見ている視線の先を追って辿る。
――女性だ。
赤い長髪はボサボサになって外に跳ね、着ている服も高価そうな印象を受けるのだが、所々汚れている。
その眼光は鋭く尖り、こちらを…というよりは、アルナだけを睨みつけ、その周囲にいるみかん達にも敵意を振り撒いているような感じがした。
「…フェイ、何処に行っていたのです」
――フェイという名前らしい彼女は返事をしない。
少しの沈黙の後、彼女は踵を返してその場から立ち去っていった。
「……すみませんでした。みかんさん、皐月さん」
「いえ…あの、さっきの方は?」
「…妹です。双子の」
「双子…ってことは…」
「第二王女…フェイ・ウィンドラウスですよ」
――流石に少し驚いた。
成る程、アルナが自らを第一と名乗ったのも納得がいく。
随分険悪な雰囲気なのと、双子と言うには相違点がとてもよく目立っていたのが気になるが。
「相変わらず荒れてますねぇ、フェイちゃん」
「ええ…でも、ウィンドラウスには必要なんです。これからは…尚更」
廊下の先に目をやりながらアルナは呟く。
王の死、二人の王女…
ウィンドラウスを取り巻く空気は確かに変わりつつあった。
…だが、その空気の色が何色なのか、まだ誰も知らない――