Red Dragon Gazer.





始めは気のせいだと思った





素なのかわざとなのか
お嬢様が出掛ける時に
気付いてもらえなくなって
声をかけられなくなって
素通りされるようになって


いつの間にか
誰かの視線を感じなくなって


でも
時々
本当に時々
突き刺さるような何かを感じる






雲が空を隠し
月を隠し
ほんの少しだけ雲が泣き出した夜


館内が少し賑わいだした


ずっと外にいるので
何があったのかわからない
けど
この日はやけ
いつものような何かを
すぐ傍から
感じた






「メイ」






「…妹様?」


小雨が
風が
身体の熱を少しだけ奪う


門が少しだけ
内側から音を立て
持ち主を護れる程度に
大きな雨傘が
私の隣に立った






「みんながうるさいの」
「この程度なら大丈夫なのに」
「今頃はお姉様もカンカンね」


「皆が妹様を心配して探してますよ」
「そんなの嘘よ」


「口煩い小言なんていつもだし」
「私を外に出そうとしない」
「私が何でも壊しちゃうからってだけで」
「私だって外に出たいのに…」


「お姉様も皆も、私のことなんか嫌いなんだわ」






「私には」
「そうは思えませんけどね」
「どうして?」
「だって、本当に嫌いならそもそも相手になんかしないじゃないですか」


「時々」
「本当に時々ですけど」
「私は妹様がうらやましくて仕方ないです」


「館の誰もに恐れられて」
「館の中でもとても強くて」
「館の誰もに愛されて」


「私は」
「まるで皆に忘れ去られたみたいで」
「メイド達にも咲夜さんにもパチュリー様にも小悪魔にもお嬢様にも」
「誰も…」






「そんなことないわ」






「私はずっと見ていた」
「ずっと一人で頑張っていた事、私は知ってた」
「私にはあんなことできない」
「メイだって強いわ」


「皆が構わないなら、私がメイを心配する」


「メイの傘になる」
「メイをいじめる奴からメイを護るわ」
「例え咲夜でも、お姉様でも…」


「私は好き」






「メイのこと、好きよ」
「とっても」


「だから」






「…その気持ちだけで、私は幸せですよ」


















空が泣き止んだ頃に
いつも通りの一日が終わり
また
少しの眠りを許された


音の無い館を歩く
その途中


立ち塞がる夜の王女


突き上げる
氷のように冷たい視線が
身を震わせ
それすらも懐かしく思える






「脅されたわ」


「はあ」






「たまにトチってる時もあったけど」
「これでも一応」
「一応ね」






「貴女を信じてるつもりよ」






「多分だけど」
「他の皆もそうなんじゃないかしらね」






それだけ言い捨てて
また何も感じなくなった






でも
なんとなく
今までのそれとは
何かが違うような
そんな気はした






ただ
その時は


何処からともなく
込み上がってくる何かがうざったかった










最初は気のせいかと思った






でも
それは確かに気のせいだった