昨日の続きですが、何か?

「…765プロダクション…ここね」
名刺に書いてあった住所を確かめ、建物を特定する。
一階、二階は別のテナントのようだったが、名刺に書いてあったとおり、三階の窓ガラスにしっかり「765」と書かれてあった。
流石に間違いないだろう。
「うん…俄然やる気出てきたわ!」
やや大袈裟気味に力みつつ、零亜はいざビル内へと足を踏み入れた。


「おじゃましまーす…」
別に泥棒を自負したわけではないが。
知らず知らずのうちに緊張していたようで、遠慮がちにこっそりと事務所の扉を開く。
わずかな隙間から中の様子を伺う…が。
人の姿は見当たらない。
人の気配はするにはするのだが、多分この隙間から見える所にはいないのだろう。
入るなら今か。いやだから別に泥棒ではないのだが。
「君」
「きゃわぅッ!!?」
突然のバックアタック
慌てて後ろを振り向くと、そこには同じくスーツ姿の男が立っていた。
間違いなく毛先を口でくわえられるくらいのあまりにも長い前髪が顔全体を覆って、どうにも顔色を伺いにくい。
「…えーと…そこ通りたいんだけど」
「え、あ、ああ…ごめんなさい」
扉の前に立っていれば、そんな事を言われるのも当たり前か。
二、三歩下がり、道を開ける。
彼は軽く会釈し、ドアノブに手をかける――
「ねえ」
そこでなんとなく呼び止めてしまった。
扉を半開きにしたまま、彼は零亜へと目を向ける。
「あなたもプロデューサー?」
「いや…ええと、言ってみれば新人プロデューサー…かな」
それだけ言って、まるで逃げるように彼は中へと入っていった。






「…人手不足なのかしら、ここ」