そして

小説。
PrimitiveAnthemで公開されていない「テイクアウト専門店『JESUS』」の第一話(序盤)です。
先に旧太鼓の賛美歌で公開した部分含め、時間かけてるのに進行はイマイチな今現在までの部分をとりあえず公開。
だって他に出すものないし。とりあえずどうぞ。長いよ?






某月某日。
この俺――『樋浦 宗』は、とある店舗の前に立っている。
『テイクアウト専門店 JESUS』と書かれたその建物は、ここ最近になって開店したものだ。
テイクアウト専門とはあるが、果たしてテイクアウトできる範囲はどこまでなのか…
――ほっかほっ○亭みたいなヤツじゃないのか?…とにかく、そんな店の前に俺は立っているワケで、
更にこれから無謀にもこの店にバイトの面接を受けに行こうとしているのだ。
勿論、俺にだってやんごとなき事情というものがある。…いや、ちょっと大袈裟に言い過ぎたか。
今までは親からの仕送りもあったせいか、とにかく生きることのみを目的にダラダラ生活していたのだが、
ある日突然ぱったりと仕送りが来なくなってしまった。更に今の今までバイトをしていなかったので
否応ナシに身の危険を感じてしまったのだ。
アニメだのフィギュアだのに無駄な金をつぎ込んでいない分、他のオタク無職なんぞよりはマシなんだろうが、
この歳――これでもう、21歳だ――で仕事、もしくはバイトをしていないのは大問題だろう。
…とまぁ、そういう理由もあり、数件回って面接を受けに入ったのだが、ことごとく落とされ続けている。
途方にくれていたときに偶然、バイト広告チラシを見て、真っ先に目に入ったのがここ、『JESUS』のバイトだ。
他にアテもなく、最早やけっぱちに近いと言ってもいい。とにかくダメ元で面接を受けに来た、というワケだ。
一体何が待ち構えているのやら…
俺は意を決した。


「いらっしゃいませ〜」
店に入ってまず目に入ったのは、綺麗な銀髪が目立つ、小麦色の肌の女性が店内の掃除をしている姿だった。
自分よりいくつか年上そうな雰囲気の彼女。
この仕事には慣れきっている手際だった。ただ少し天然そうな感じがしたが、これはこれでまぁ可愛いのではないだろうか。
と、ここまでは褒め言葉で終わらせていい。
…他に気になったのはまず、店内の内装。
テイクアウト専門と書く程だから、飲食店のようなものを少なくとも想像していたのだが、
その予想を大きく裏切る、まさかのオフィス的内装。
ほっか○っか亭のようなカウンターやメニューなどはない。正直に、オフィスそのものだ。
更に、そこで掃除をしている女性の服装。
…私服ですか?
そしてそのピンクのエプロンからちらちらと見えるスカートにでかでかと写っている、『破砕』の二文字。
…ここでバイトして大丈夫だろうか。
一抹の不安が頭をよぎる。
しかし今は気負いしている場合ではない。選り好みしている場合でもない。
とりあえず、せめて面接だけでも受けなければ。ここをやめても、他の所で面接が受かる保証はどこにもない。
掃除をしている女性に聞いてみることにした。
「バイトの面接に来たんですけども」
「あらあらあら〜、まあまあまあ〜」
…何でしょうか、このあからさま過ぎる天然なイメージが強いお姉様は。
その喋り方ものほほんとし過ぎだ。なんだか、何もない所でずっこけて、しまいには「はう〜」とか言いかねないぞ。
――なんてことを考えていたら、俺のそんな儚い期待に答えるかのように、彼女はいきなり何もない所でずっこけた。
「はうぅ〜」
……え、えーと。
そ、そうだ!この人はきっと宇宙からの使者なんだ。
だからきっと俺の考えていることを瞬時に読み取って、更にそれを実行してみせたわけだ。
そうすることで俺に「あ、この人は宇宙人なんだな」って思わせようとしていたに違いない!
うんそうだ。そうに決まってる。
……んなわけねえだろ。と、俺は心の中で一人ノリボケツッコミをやってのけた。
「あうあう…すみませんです〜」
なんで謝る。気まずいわ。


「さ、こちらで少〜し、お待ちくださいねぇ」
応接室に案内される。
ここもまた、いかにもオフィスって感じだ。
のほほんお姉様は、面接の担当をする人を呼びに行った。
俺は入店前の不安を更に肥大させながら、ドアを開けて目の前にあった椅子に座った。
向きは丁度、ドアの反対側だ。ここに座ると、誰が入ってきたのか確認できないが、まぁいいだろう。
果てしなく不安だが、せめて普通の人であってほしいものだ。
座って暫くもしないうちに、後ろのドアが開く音がした。誰かが入ってきたようだ。
俺は気を引き締め、あえて振り向いて確認せずに正面を向いて待ち構える。
視界に入って……き……
「お前か?バイトの面接を受けに来たヤツってなァ」
………よ、よし、落ち着け俺。
俺の目の前に座る人は確か、この店の面接を担当する店員さんのはずだ。
しかし今、俺の目の前に座った人は何故か、いかにもなヤクザ調の御方でした。
…まさか店長ではないだろうな。
不安が俺を支配するのがよくわかる。
物凄い睨みをきかせて舐めるようにこちらを見る。
…うん、よし。もうこの先、何があっても驚かないぞ。うん。
俺は内心ドキドキ(不安と今後の展開に)しながら、気迫負けしないようにと、彼と睨めっこを始めた。
無音の空間が形成され、それが、無限とも思える時間ほど続いた。
…と、眼前のヤクザな御方は目をそらして、何かゴソゴソとやり始めた。
「ふん…どうしてここを選んだ?」
「たまたま目に付いたからです。それに、他のバイトの面接もことごとく落とされていますから。
 まぁ、もう他にアテがないわけです」
「何をする所かわかってンのか?」
「さっぱり」
俺のハートは驚くほど冷静だった。こんなヤクザな御方を目の前にしても、何故か怯むような気分にならない。
すごいぞ俺のハート!
この他にも次々と質問されるが、それに対して、いつも以上に冷静なハートを武器にしながら、
いつもどおりの調子で言ってのける。
だが…今俺が気にしたいのはそれじゃない。
向かいに座っているヤクザな御方は質問をし続けているにもかかわらず、最初の睨み合い以外にこちらを向いていない。
では何をやっているのかと言うと、俺の目の前に入ってきてからいきなり取り出した、
日本刀の手入れを丹念に続けていた。
無性にツッコミたい衝動に駆られる。
ここは日本で、銃刀法違反じゃないのかと。
…しかし、相手は本職(何かの)。
下手を打つとその刀でばっさり殺られそうだった。だからあえて気にしないでいた。
…しかし気になるぜ。
「最後の質問だ」
ヤクザな御方は、手入れの終わった刀をしまって、こちらを再び睨みつける。
彼はサングラスを着用していらっしゃっていたのだが、その目力とも言うべき気迫の波が目から放出されているせいか、
物凄い形相で睨まれていることはすぐにわかった。
俺の心臓の鼓動は更にヒートアップ(今後の展開に期待して)し、彼の唇が歪むのをじっと待つ。
――動き出した。
テンションはオーバーヒート寸前だ。
「万が一死ぬようなことがあっても構わねェな?」
…聞き違いかな?
今何かよからぬ単語が聞こえたような気がしたが。…気のせいか?
ま、まあとにかく、その最後の質問にも俺は怯むことなく首を縦に振った。
すると突然、ヤクザな御方は席を立ち、応接室から出て行った。
…何か答えをしくじったのだろうか。
とにかく、どうやら面接は終了したらしい。
これは勘で、しかも想像の範疇だが。
もし今の面接が不合格だったら、さっきのヤクザな御方に小指の一本でも持っていかれて追い出されるのではないだろうか。
そうだとしたら、きっと切り落とすための準備をしに行ったのか…
万が一にも合格であれば、きっと店長らしき人が部屋に入ってくるかもしれない。
不安すぎる。
あまり生きた心地がしないまま、俺は最後の気力で気を引き締めて、次の展開をじっと待つ。